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京都地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決

原告

株式会社塚腰運送店

右代表者

塚腰龍造

右訴訟代理人

植松繁一

被告

下京税務署長

毛利政男

右指定代理人

河口進

外六名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告に対し昭和四四年一一月二九日付でなした、昭和四二年三月二一日から昭和四三年三月二〇日までの事業年度分法人税の所得金額を金五、〇一四、四六〇円とする更正処分のうち、金四、五三三、一二六円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、陸上運送業を営む会社であるが、昭和四二年三月二一日から昭和四三年三月二〇日までの事業年度(以下本事業年度という)の原告の法人税確定申告にあたり、総所得金額を金四、五三三、一二六円と申告したところ被告は昭和四四年一一月二九日付で右年度の所得金額を金五、〇一四、四六〇円とする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をなし、原告に対しその旨通知した。

2  原告はこれに対し、同年一二月三日被告に異議の申立をしたが、昭和四五年二月二七日被告はこれを棄却したので、更に同年三月六日大阪国税局長に審査請求をしたが、国税不服審判所長八田卯一郎は同年一二月一七日付でこれを棄却し、同月二五日頃その旨原告に通知した(請求から裁決の間に国税通則法の改正があつた)。

3  しかし、原告の本事業年度における所得金額は金四、五三三、一二六円であり、本件更正処分等は原告の所得を過大に認定した違法があるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因第1・2は認め、同第3項は争う。

三、抗弁

1  原告の本事業年度の所得金額は、原告の申告した所得金額四、五三三、一二六円に次の金額を加算した金五、三〇六、五二七円であり、その範囲内でなした本件更正処分に違法はない。

(一) 訴外塚腰岩蔵に対する賞与

金 五〇、〇〇〇円

(二) 訴外塚腰龍造の結婚費用等

金七二三、四〇一円

計   金七七三、四〇一円

2  訴外塚腰岩蔵に対する賞与について

原告は、本事業年度において右訴外人に支給した賞与金五〇、〇〇〇円を損金に計上している。しかし、右訴外人は、原告の代表取締役塚腰龍造の伯父であつて、原告の株主であり、且つ取締役であるところ、原告は法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前のもの、以下旧法人税法という)第二条第一〇号イにいう同族会社に該当し、右訴外人は原告が同族会社であることの判定の基礎となつた株主等にあたる。従つて、前記の賞与は旧法人税法第三五条第五項、同法施行令(昭和四五年政令第一〇六号による改正前のもの、以下旧施行令という)第七一条第四号の規定により、損金に算入することはできない。

なお、原告は、本件は旧施行令第七一条第四号に該当せず、仮に該当するとしても、右条項は違法無効であると主張するが、以下に述べるとおり原告の主張はいずれも失当である。

旧法人税法は、役員に対する賞与は原則として損金に算入しないものとした(同法第三五条第一項)が、使用人兼務役員に対する賞与のうち、使用人としての職務に対して支給された部分については、会社の日常における業務の執行が特定の少数者に委ねられ、平取締役が使用人としての職務を兼ねる因習が一般化したこと、役員と使用人との区別が不明瞭化する傾向にあることに伴い、営業活動に必要な費用として損金と認めるべきであるとして、一定範囲の使用人兼務役員についてはその賞与の一定部分を損金に算入することとしている(同条第二項)。右の法の趣旨からすれば、社長、理事長のように法人業務の執行を担当する役員は、使用人の職務を遂行しても使用人としての職務の遂行とはいえず、それ自体役員の業務執行とみるべきものであるから、これらの者に対する賞与は損金に算入すべきものではない。そこで、旧法人税法は第三五条第五項において、右の趣旨のもとに損金算入の認められる役員の範囲を限定し、社長、理事長その他政令で定めるものを同条第二項に規定する役員から除外したのである。右法の委任に基づき旧施行令第七一条第四号は、右役員の中には同族会社判定の基礎となつた株主等も含まれるものとした。同族会社判定の基礎となる株主及びその同族関係者は、その会社の大株主及びその同族関係者であることから、その会社を支配することが可能な地位にあり、本来その会社の主宰者であるとみるのが相当であつて、右役員が使用人と同様な職務に従事したとしても、それは社会通念上業務執行担当役員としてその職務に従事したとみられるべきものである。右のような性質を有する同族会社判定の基礎となつた株主等については、支給された賞与がその者の使用人としての職務に対して支給されたとしても、使用人に対する賞与とみるべきものではない。従つて、右の場合に旧法人税法第三五条第二項の適用を排除する旨を定めた旧施行令第七一条第四号には合理性が存し、右法が使用人兼務役員に対する賞与について損金算入を認めた趣旨に合致する。

3  訴外塚腰龍造の結婚費用等について

右訴外人は原告の代表取締役であるが、原告が損金として支出した次の金額は、同訴外人が訴外塚腰(旧姓村田)美代子と株式会社都ホテルで行なつた結婚式及び結婚披露宴(以下本件結婚式、披露宴という)に関連する費用であつて、訴外塚腰龍造が個人として負担すべきものであり、隠れた利益処分たる賞与と認められ、損金に算入できない。

(一) 昭和四三年三月一九日株式会社都ホテルに支払つた本件結婚式及び披露宴費用 金五三一、三三四円

(二) 同月四日株式会社大丸京都店へ支払つた婚礼記念品代 金八一、四〇〇円

(三) 同年二月二八日及び同年三月一八日株式会社鶴屋吉信へそれぞれ支払つた婚礼土産代  金九一、四三七円及び金一九、二三〇円

計   金七二三、四〇一円

なお、原告は、本件結婚披露宴は、その出席者の大部分が原告の取引先、同業関係者等であり、今後の親交を願い取引関係の円滑な進行を図るため行なつたもので、右費用は原告の交際費にあたる旨主張するが、たとえ代表取締役の披露宴であつて、取引先等を招待したとしても、それは代表取締役個人の社会的地位に基づく私的なものというべきで、会社自体の業務遂行とは何ら関係がない。ところで、本件結婚披露宴の出席者のなかには訴外塚腰龍造の友人、知人をはじめ、親族関係者が含まれ、出席者のすべてが原告の取引先、同業関係者であつたものではない。また、本件結婚披露宴費用については、都ホテルは当初、申込者である訴外塚腰龍造あてに請求書を送付したが、原告の依頼により、金額をそのままとして請求先を原告に変更し、記載内容を一部変更した請求書を原告に送付し、原告がこれを支払つたものである。右金額の中には挙式料及び新郎新婦の同ホテルにおける宿泊料も含まれている。

原告は、会社役員の社葬費用が同会社の損金として認められるのに、会社役員の結婚披露宴費用が同会社の損金として認められないのは不合理であると主張するが、社葬費用を損金と認めるのは、社葬が死亡した役員の生前の会社に対する功労に対して最後の餞として当該会社が主体となつてなされる行事であつて、それは本来得意先に対する接待等の性格を帯びるものではなく、福利厚生的な性格をもつからである。結婚披露宴は本来私的行事であり社葬とは本質を異にする。

原告は、また、訴外塚腰龍造の結婚後、原告会社の業績は飛躍的に向上した旨主張するが、会社の業績は経営者、従業員の資質等の人的要素のみならず、資本金や機械装置等物的設備によつて左右されるものであり、原告の業績の向上も会社内部の物的設備の拡大、増資等によるものと解される。

仮に、訴外塚腰龍造の本件結婚披露宴が原告の行事として行なわれたと認められるならば、同訴外人が受け取つた結婚祝金等は原告の収益に計上し、右披露宴の費用に充当すべきものである。右訴外人が取引先、同業関係者等から受け取つた結婚祝金等は金五〇万円を超え、本件披露宴の費用を殆ど賄うことができるものであつた。

四、抗弁に対する認否

1  抗弁第1項は認否する。

2  同第2項中、訴外塚腰岩蔵が原告の代表取締役塚腰龍造の伯父であつて、原告の株主(総株式四、〇〇〇株のうち、持株はわずか八〇株である。)であり、且つ原告の取締役であること、原告が旧法人税法上の同族会社に該当すること、及び原告が訴外塚腰岩蔵に対し賞与金五〇、〇〇〇円を支給し、右金額を損金に算入していたことはいずれも認めるが、その余は争う。

右訴外人は、原告の平取締役としての役員を兼ねた使用人(駅出荷扱担当・配車担当)であつたが、本件賞与は同人の役員としての地位を全く考慮に入れず、使用人に対するものとしてなされたものであり、これを損金に計上するのは当然である。ちなみに、原告会社の従業員一人当り平均賞与は七、八万円であつたが、右訴外人の場合は、その職務内容からみて五万円としたものである。

被告は、旧施行令第七一条四号の規定により、同訴外人に対する賞与は損金に算入できないと主張しているが、同条号は役員兼使用人である者につき、同族関係の株主であるという点から、当該人の実質的な当該会社内の地位によらず便宜的な損金処理をすることを防止するための規定であり、本件のように実質的に使用人にすぎない者は、右規定に該当しないと解すべきである。

仮に右のように解することができないとしても、右条号は以下の理由により違法無効なものである。すなわち、使用人としての職務を有する役員に対する賞与は、使用人としての職務に対して支払われた分については損金となるのが原則である。なぜならば、賞与が使用人としての労働の対価として支給されたものである限り、旧法人税法第二二条第一項により当然損金とみるべきだからである。これは同族会社における使用人兼務役員の場合においても同理である。旧法人税法は右の理を認め、第三五条第二項で使用人兼務役員の使用人賞与を損金に算入することを認めながら、同条第五項において使用人兼務役員の定義をなし、そのなかでこれより除外する役員を政令に委任し、この委任を受けた旧施行令は同族会社の一定の株主を画一的に右使用人兼務役員から除外することによつて、本来損金として課税の対象とならない使用人賞与を新たな課税の対象とするのと同一の結果を招来している。このように、政令において同族会社の一定の株主の使用人賞与に対して画一的に新たな課税をなすと同一の効果をきたす内容を追加規定することは租税法律主義に違反するものである。

3  同第3項中、原告が被告主張の(一)ないし(三)の金員を支払い、これを原告の損金に計上したことは認めるが、これは以下に述べるとおり原告の交際費であり、損金に算入すべきである。

交際費とは、法人が得意先、仕入先その他事業に関係ある者との親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出するものをいい、支出した費用が売上の増加、利益の獲得にどの様な役割を果したかを問うものではないとされている。原告はその代表取締役の結婚披露宴をなすにあたり、同人の結婚を取引先、その他事業に関係ある者に知らせるとともに、今後の親交を願い、更にこれら関係者との親睦の度合を密にして取引関係の円滑な進行を図るため、主として原告の関係者を披露宴に招待したものである。披露宴出席者の内訳は、出席者総数六八名のうち、取引銀行関係二名、同業者六名、取引先、得意先二二名、原告会社関係者一三名、訴外塚腰龍造友人、嘱託医など九名、新郎新婦親族一六名であり、その出席者の大部分が原告の取引先、同業関係者である。仮に結婚披露宴に取引先を招待しなかつたとすれば、その取引先は取引関係を軽視されていると考え、爾後の取引の円滑を欠くこととなり、特に同族、小企業会社にあつては、取引先の会社に対する評価は代表取締役即会社として評価がなされ、その結婚披露宴は会社にとつて重大な関心事である。従つて、原告の支出した本件結婚披露宴に関連する諸費用は、「取引先その他事業に関係ある者等に対する交際費」(租税特別措置法第六二条第三項)にあたる。

ちなみに、葬儀と結婚披露宴とは社交上の儀礼という点から異なるところはなく、役員の社葬費用が会社の損金として認められているのであるから、結婚披露宴費用が会社の損金として認められないのは不合理である。

また、原告のような中小企業にとつて代表取締役の結婚は会社の経営に大きな影響をもたらすものであり、現に訴外塚腰龍造が結婚した後の原告の収入、利益は、それ以前に比べ飛躍的に増大し、本件結婚披露宴が原告の業績向上に寄与したことは明らかである。

なお、本件結婚披露宴費用中には、挙式料及び宿泊料が含まれているが、仮にそれが交際費にならないとしても、福利厚生費として損金と認められるべきである。

さらに被告は、本件結婚披露宴が原告の行事として行なわれたのであれば、原告が受取つた結婚祝金は原告の収益に計上すべきであると主張するが、お祝い金品を誰が受領するかは贈与者の意思によつて定まるものであり、その意思は通常結婚する当人に贈与しようとするものであつて、本件結婚に際し訴外塚腰龍造が受け取つた金品にも個人の調度品、身のまわり品が含まれていた。このように、同人個人にお祝いとして贈与されたものを原告が受領し、利益に計上するわけにはいかない。

第三  証拠〈略〉

理由

第一請求原因第一項及び第二項の事実は当事者間に争いがない。

第二ところで、被告は、原告の本事業年度の所得金額は原告の申告した所得金額に、(一)訴外塚腰岩蔵に対する賞与金五〇、〇〇〇円及び(二)訴外塚腰龍造の結婚費用等金七二三、四〇一円を加算した金額であると主張し、原告はこれを争うので、以下この点について順次検討を加える。

一訴外塚腰岩蔵に対する賞与について

1  原告が旧法人税法第二条一〇号イにいう同族会社に該当すること、訴外塚腰岩蔵が原告の代表取締役塚腰龍造の伯父であつて、原告の株主であり、且つ原告の取締役であること、及び原告が訴外塚腰岩蔵に対し賞与金五〇、〇〇〇円を支出し、右金額を損金に算入していたことは、いずれも当事者間に争いがないい。

ところで、旧法人税法第三五条第五項は、同条第二項に規定する使用人としての職務を有する役員(いわゆる使用人兼務役員)とは、役員のうち部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、且つ常時使用人としての職務に従事するものをいうとし、役員でも社長、理事長その他政令で定めるものについては、右要件を充たす場合であつても、右規定の適用上いわゆる使用人兼務役員としての取扱いをしない旨規定している。そして、右法律の委任に基づき、旧施行令はその第七一条第四号において、同族会社の役員のうち、その会社が同族会社であることについての判定の基礎となつた株主等(当該株主等と旧施行令第四条第一項に規定する特殊の関係ある個人を含む。)であるものを明示し、右株主等を旧法人税法第三五条第二項の賞与につき損金算入が認められるいわゆる使用人兼務役員から除外している。

前記争いのない事実と、〈証拠〉を総合すると、訴外塚腰岩蔵は、原告が同族会社であることの判定の基礎となつた株主ないしは右判定の基礎となつた訴外塚腰龍造の同族関係者に該当するものであることが認められ、旧施行令第七一条第四号所定の同族会社判定の基礎となつた株主等にあたることは明らかである。従つて、訴外塚腰岩蔵は旧法人税法第三五条第五項、旧施行令第七一条第四号より、同人が事実上使用人としての職務に従事するものであると否とを問わず、旧法人税法第三五条第二項の適用を受ける使用人兼務役員とされないものである。

そうすると、本事業年度において右訴外人に支給した賞与金五〇、〇〇〇円については、原告の所得金額計算上これを損金の額に算入することができなかつたものといわなければならない。

2  原告は、旧施行令第七一条第四号は、旧法人税法第三五条第二項が使用人兼務役員の一定の賞与を損金に算入することを認めているにもかかわらず、同族会社の一定の株主等につき画一的に使用人兼務役員から除外することによつて、本来損金として課税対象とならない使用人賞与分を新たに課税対象としたものであつて、租税法律主義に違反し違法無効であると主張する。

しかし、旧法人税法上、役員に対する賞与は原則として損金に算入されず(第三五条第一項)、ただいわゆる使用人兼務役員に対する賞与のうち、使用人としての職務の対価に相当する部分については、一定の要件のもとにこれを損金に算入することが認められているにすぎない(第三五条第二項)。このような損金算入の制限は、一般に役員は法人の業務の執行を担当しその利益の分配にあずかる地位にあり、これに対する賞与は性質上利益処分と考えられることに基づくものであるが、ただ役員のなかには、常時使用人としての職務を兼ね業務執行担当者としての地位が殆んど形骸化しているものが少なくなく、このような役員に対する賞与については、その一定部分が使用人たる地位において遂行した職務の対価たる性質を有するものとみて、これにつき損金算入を認めるのが合理的である。旧法人税法第三五条第二項はこのような趣旨に基づく規定であり、使用人としての職務に従事する役員のすべてを当然にその対象とするものでないことは、同条第五項が右第二項に規定する使用人兼務役員から社長、理事長その他政令で定めるものを除外していることからも明らかである。すなわち、社長、理事長等は本来的に法人の業務執行を担当する役員であり、その地位の性質上、仮に使用人の職務を行なつたとしても、その職務の遂行は使用人としての地位においてではなく役員としての業務の執行と認められるのであつて、その受ける賞与についても使用人としての職務に対する対価部分は考えられないからである。そうだとすると、旧法人税法第三五条第五項が政令に規定を委任する使用人兼務役員から除外されるべきものの範囲は、同条項の例示する社長、理事長に準ずべき地位を有するものに限られるものであることが同法第三五条全体の趣旨に照らして明らかであるから、これをもつて法律に根拠をもたない新たな課税対象の設定を一般的に政令に委任したものということはできないし、右委任事項が具体的な経済の進展に伴う流動的な性質のものであることをも併せ考えると、右委任が租税法律主義に違反するものということはできない。

また、右委任に基づき旧施行令第七一条第四号が同族会社の役員のうちその会社が同族会社であることについての判定の基礎となつた株主等を旧法人税法第三五条第二項に規定する使用人兼務役員から除外しているのは、右株主等は、常時使用人としての職務に従事する場合であつても、自己及びその同族関係者の持株を通していつでも会社の経営や経理に支配を及ぼしうる地位にあることから、これを経営者たる地位にある業務執行担当者と同視して法人税賦課の公平を図ろうとしたものであつてその規定の根拠には十分な合理性が認められ、これをもつて右委任の範囲を逸脱したものということもできない。

二訴外塚腰龍造の結婚費用等について

1  昭和四三年三月三日原告の代表取締役社長訴外塚腰龍造の結婚披露宴が都ホテルで行なわれたこと、本件結婚披露宴に関連する費用として被告主張の(一)ないし(三)の金員が原告から支払われ、原告の損金に計上されたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉によると、本件結婚披露宴の会場申込者や披露宴招待者に対する招待状の発信人名義はすべて訴外龍造の個人名が用いられており、また都ホテルからの本件披露宴等の費用の請求も同訴外人個人に宛ててなされ(尤も、成立に争いのない乙第九号証の二によると、右費用につき一部内容を異にする原告宛の別の請求書も発行されている事実が認められるが、〈証拠〉によると、この原告宛の別の請求書は、後日原告側の依頼により、当初同訴外人宛に発行された請求書のほかに、ことさらその名宛人を原告に書き換えるなどして作成発行されたものであることが認められる。)、且つその費用中には同訴外人の結婚式の挙式料や新郎新婦のホテル宿泊料等明らかに同訴外人個人の負担すべき費用が含まれていたこと、本件結婚披露宴に際し招待者が持参した贈答品はすべて同訴外人がこれを受け取り、原告に対する贈答品としての計理処理は全く行なわれていないこと、本件結婚披露宴は、当日都ホテルで行なわれた同訴外人の結婚式に引き続いて同ホテル内の宴会場において催され、その出席者は新郎新婦を含めて約六八名で、うち原告の取引先、同業関係者が半数近くを占め、原告会社関係者も約一五名が出席したが、他方新郎新婦の親族関係者や訴外龍造の友人知人等結婚当事者の私的縁故者も約二〇名が出席し、且つ右原告会社関係者中にも同訴外人の親族が含まれていたこと、右披露宴は結婚当事者である塚腰、村田両家の名において行なわれ、当日その会場に原告を主催者とする標示はなく、その宴会の内容も通常一般の結婚披露宴と格別異なつた点はなかつたことが認められ、〈排斥証拠略〉他に右認定を覆えすにたる証拠はない。

2  原告は、本件結婚披露宴は、原告会社社長の結婚を取引先その他事業に関係ある者に知らせるとともに、今後の親交を願い取引関係の円滑な進行を図るために行なつたものであるから、そのため支出した諸費用は交際費として損金になると主張するが、結婚披露宴はそもそも、結婚当事者が結婚の事実を双方の親族や親しい関係者らに知らせて、これらの者から祝福を受け、且つ今後の親交を願うため行なわれる行事であつて、結婚当事者の事業を経営している場合には、その事業にとつて重要な取引先あるいは同業者らに対して結婚を披露し、今後の取引の円滑な進行を願うこともその目的に含まれるのは当然である。このような結婚披露宴の趣旨に加え、披露宴が社会慣行上個人の私的行事とみなされる結婚式と同時に、すなわち挙式に引き続いて行なわれるのが通常であつて、いわば結婚式に付随するものであることを考えると、結婚披露宴は特別の事情が認められない限り、結婚当事者の私的な社交的行事であると考えるのが相当である。

そこで、これを本件結婚披露宴についてみるに、さきに認定した事実に照らしてみても、それが、原告の取引先等の事業関係者を接待きよう応する目的で催されたものと認めうるような特段の状況を備えていたとは未だいいがたく、総じて世間一般の結婚披露宴と格別異なるところはみられないのであるから、結局本件結婚披露宴は訴外龍造の私的行事として行なわれたものと認めるのが相当である。

3 尤も、本件披露宴には原告の事業関係者が多数招待されているが、これは訴外龍造が自己の社会的地位、交際範囲等から原告の取引先、同業者らを最も重要な関係者と判断して選択したものに過ぎないとみられるのであつて、またその結果、本件披露宴が原告と取引先等との間の円滑な取引の遂行に寄与した面があつたとしても、これは右披露宴に取引先等を招待したことの間接的な効果であつて、その故をもつて、本件披露宴が原告の事業遂行のために取引先等を接待する目的で行なわれたものとは解し難い。

原告は、社葬費用の扱いと比照し結婚披露宴費用が会社の損金として認められないのは不合理であると主張するが、社葬は死者が生前役員として会社に功労があつた場合、その功労に対する餞として当該会社が主催して行なう儀式であつて、それは本来福利厚生的な性格を帯びるものである。これに対し、結婚披露宴は本来私的な行事で通常結婚当事者がこれを行なうものであるから、社葬とは性質を異にするものというべきである。

また、原告は、代表取締役たる訴外龍造が結婚した結果原告の業績は飛躍的に向上し、当該結婚が原告の業績向上に寄与した旨主張するが、右事実をもつて直ちに本件披露宴が原告の事業遂行のための接待目的で行なわれたことの証左となし難いことは前記のとおりであつて、且つ会社の業績は経営者、従業員の資質など人的要素のみならず、資本金、物的設備、その他業況、経済の消長等に左右されるものであり、本件においても、原告代表者塚腰龍造の尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証の一ないし一二によれば、原告の規模の拡大とともに業績も上昇し、しかもその傾向は訴外龍造の結婚以前から認められるのであつて、当該結婚、ことに本件披露宴が原告の業績向上の直接の原因であつたとまで認めることは未だ困難である。

なお、本件結婚披露宴費用中挙式料及び宿泊料につき、それらを福利厚生費として損金に算入できないことも明らかである。

4  以上のとおり、本件結婚披露宴及びこれに関連する費用として原告が支出した金七二三、四〇一円は訴外龍造が個人として負担すべきものであり、原告の所得金額算定上隠れた利益処分たる賞与として処理すべきで、損金に算入することはできないというべきである。

第三従つて、原告の本事業年度の所得金額は、原告の申告額に前記第二の一の各金額を加算した額であり、その範囲内でなした被告の本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は結局相当であつて何らの違法はない。

よつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(上田次郎 谷村允裕 永田誠一)

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